第2回経済レポート-オリコと伊藤忠の資本提携

  1. オリコと伊藤忠の資本提携
  2. オリコという会社の評価
  3. 優先株式に蝕まれる資本
  4. オリコの財務分析

1.オリコと伊藤忠の資本提携

先週の木曜日、すなわち2月10日に伊藤忠のオリエント・コーポレーション(オリコ)に対する21%の資本参加が発表された。総額700億円の大型M&Aでまことに面白い資本提携であり、検討に値するので、急遽分析する事とする。

この日の日経新聞の朝刊では、三井住友銀行と大和証券の統合がでかでかと一面の半分ほどを占め、同じく一面左半分4分の1ほどのスペースで、”伊藤忠、オリコに出資、700億円、筆頭株主に”として、この資本提携が取り上げられている。普通であれば、トップ記事であるが、三井住友と大和証券の統合に割り負けした格好となっている。さて、問題はここからのオリコの株価の動きである。当然のことながら、証券市場は伊藤忠とオリコの資本提携を歓迎し、オリコの株に買い注文が殺到し、前場の立会い前の気配値ではオリコの株価は買い気配を切り上げつつある状態であった。オリコの前日すなわち2月9日の終値は313円であったが、気配値は320円、330円とどんどん買い気配を切り上げていたのである。ところが、この日の午前はいつまでたっても気配値のみで、オリコの株価がつくことはなかった。東証が午前中一杯オリコの売買を停止させたからである。この日の午前中に、伊藤忠とオリコの資本提携に関するプレス発表があったのであるが、なんと、この時同時に、オリコの平成17年3月期の業績予想の下方修正があったのである。東証は、市場の混乱を恐れて、情報の周知がなされるまで、売買を停止した。この業績の下方修正は、それまで300億の当期利益を予想していたものを、7億円の当期利益に変更し、さらに一株あたり3円の予想配当を取りやめ無配にするというものであったから、資本提携に負けないくらいのインパクトのある業績の下方修正である。会社側の説明によれば、この下方修正は固定資産の減損会計の早期適用による170億円の特別損失と、信販業に対する貸倒引当金300億円の積み増しによるものであるとの事である。

市場はこの強弱対立する大きな2つの材料に混乱し、株価は乱高下をすることになった。まず、午前の終わりくらいからは、それまで買い気配が優勢だったものが逆転し、売り株が加速度的に増え、気配値は330円から320円、310円へと前日の終値付近まで急速に下降していった。業績の下方修正のニュースが市場に流れ始めたのであろう。そして、昼休みを挟んで、後場から取引は再開されたが、午後12時半ちょうどについた値段は前日比20円安の293円となった。率にして6.8%の下げであり、かなり大きな下げといえる。そして、この日の初値293円のあと、わずか数分の間に、292円、291円と値を下げ290円を付けると共に、これがこの日の底値となった。そして、290円を付けたあと株価は再度反転し、1円刻みで値上がりし、この日の終値は306円、前日比7円安で取引を終えている。つまり、この日オリコの株は23円下げたあと、一転16円上げて取引を終えたのである。大商いで、出来高は21,764千株である。この会社は発行済み株式数が多く、743百万株もあるが、この中の浮動株は10.9%の81百万株で、この日一日で浮動株の27%が回転したことになる。東証が午前中の売買を停止したから良かったが、場を開いていれば330円を超す初値がついていたであろうし、大勢の一般投資家が大怪我をしたことになる。

結局、この日のオリコの株価の動きから判断する限り、市場は資本提携と業績の下方修正の好悪対立する材料を消化できず、狼狽して、取引を終えたという事になる。株価的には7円安なのであるから、結果的に業績の下方修正のほうをやや重く受け止めたという事であろう。

ところが、この資本提携の相手方である伊藤忠の株は、この日前日比10円あげて518円で終わっているのである。出来高も8,013千株とよく出来ている。伊藤忠は、取引停止がなかったので、朝から値がつき、初値507円で始まり、順調に値を上げ518円のこの日の高値で取引を終えている。この高値は、オリコへの資本提携を評価してのものであるとされている。さらに、オリコには36社の連結子会社があるが、その中で1社だけ上場子会社があり、こちらのほうは株価を下げている。この会社は、オートリという会社であり大証2部に上場しているが、この日の初値が191円と前日比4円高で始まり、午前中に高値197円まであり、184円の3円安で引けている。上下7%ほど変動したわけであり、激しい値動きといえよう。この日のプレス発表では、オートリについても業績予想の下方修正があり、780百万円の予想利益が70百万円の利益に修正されている。大証は怠慢にも、売買停止措置をとらなかったので、こちらのほうでは一般投資家のけが人が出たことになる。その事はさておき、一体この伊藤忠とオリコの資本提携はどう判断すればいいのであろう。とりあえずは、オリコの株主は売り、伊藤忠の株主は買ったわけであるが、どちらの判断が正しいのであろうか。この資本提携が、伊藤忠には有利に働くが、オリコには不利ということはありえない。700億という規模であれば、この買収が失敗に終われば伊藤忠の受ける傷も半端なものでは終わらないのである。

2.オリコという会社の評価

もともと、このオリコという会社の評価は難しい。長所と欠点が対立して内在しているからである。長所は収益力である。この会社の資本金は2,080億円(平成16年12月末)、株主資本が2,890億円(平成16年3月末)程度あるものの、これは3,500億円にものぼる優先株を発行して資本を水増ししているからであり、優先株というのは、後で詳しく論述するが、借入金のようなものであり、これを除けば実質的に資本の部がマイナスの債務超過会社である。有価証券報告書で、資本の部がプラスにもかかわらず、一株当たり純資産としてマイナス92.17円と記載されているのはこのためである。資本の部に2,890億円あっても、それは優先株主のものであり、一般株主の持分は何もない。その自己資本のないような会社が、年間300億から400億程度の経常利益を上げるのであるから、なんとも始末に悪いではないか。以下は、この会社の連結決算における収益の推移である。(単位:百万円)

平成13年以降、毎期悪くとも250億、良ければ500億の経常利益を上げており、堂々たる経常利益である。今期も、業績の下方修正といいながら、経常利益の419億はしっかり稼いでいるのである。

この会社の欠点は、不良資産とその処理のためにゆがんだ資本構造である。上記の利益の推移からも明らかなように、この会社は不良資産の処理のために再建途上であり、過去何度も不良資産処理をしながら、いつまでたってもその処理が終わらない。平成12年から平成16年にかけての経常利益と当期損失の差は、この時期は税金が合理的に僅少であったと想定されるため、合理的に特別損失であると推定されるから、この両者の差を追っていくと毎期どれだけの不良資産処理をしたかがわかる。推定不良資産処理額は、平成12年度が1,650億、平成13年度が1,400億、平成14年度が442億、平成15年度が1,311億となっており、この4期で合計4,803億の不良資産の処理をしたことになる。そして、これで打ち止めかと思っていると、今回突然の特別損失470億が出てきたのである。〆て、5,273億。総資産4兆円の会社であるからなんと総資産の13%が不良資産の塊であった事になる。倒産していても不思議ではない数字である。

このように、不良資産を少しずつ小出しにして処理をするのは、軍事上兵力の逐次投入といって、もっとも悪い作戦であるといわれている。大きな手術の痛みに耐えかねて、少しずつ不良資産の処理をしていこうとしたのであろうが、このような処理をすると病根が完治せず、その治療の間にまた病気が進行するのである。本人たちは、各年度において1千億からの処理をしたのであるから、その時は抜本処理と思っていたのかもしれないが、この手の時は、自分が必要と思う処理の倍くらいの処理をするのが結果的には問題解決の早道である。それに、今になって振り返ってみると、平成13年度決算を見れば平成12度決算は処理漏れがあったことになり粉飾決算ではないのか、平成14年度決算を見れば平成13年が、また平成15年度を見て平成14年度と、どんどん粉飾決算の疑惑を打ち消すのに言い訳を失っていく事になる。結局、今回伊藤忠が資本投下するに当たり、厳格な買収監査をおこない最後の不良債権が出てきたと考えるべきであろう。

一般に、企業買収時には、厳格すぎるくらい徹底して買収監査をおこない、買値を叩くというのがM&Aの基本である。また、この会社の会計監査人は中央青山監査法人であるが、会計監査人とは違う監査人が買収監査を行ったはずであるから、監査人も買収監査では思いっきり厳しく指摘が出来るのである。なぜなら、買収監査は伊藤忠がクライアントなのであり、クライアントの意向は問題点のより厳しい指摘にあるからである。買収したあと問題が出てきたのでは、駄目なのである。買収したあと出てきた問題は、伊藤忠もその責任を取らなければならない。買収前の問題は、オリコの問題であり、そのメイン銀行のみずほ銀行の問題なのである。それを材料にして、買収交渉を有利に運ぶ事ができる。確かに、ここの経営者は、この不良資産の処理の方法についてはかなり甘く、歴史の批判に耐えられないものがあるのではないかと思うが、不良資産処理としてはかえってこれで打ち止め感が出たと考えてよいと、私は思う。

10日の日は、この期に及んで470億もの不良資産が出てきて、投資家はびっくりしたかもしれないが、このような形の不良資産の処理は決して悪い材料ではなく、むしろ良い材料であろう。今回、この不良資産の処理を行わなくても、これらの不良資産は当然に会社にあったのであり、今回の業績の下方修正はそれを表に出して損益計算書上処理をするということに過ぎない。何も問題が新たに出てきたのではなく、もともと発生していた問題を、会計上処理をするということであり、むしろ会社の財務体質はよくなるのである。日本の投資家は、どうしてもこの発生主義という概念が理解できていないようであるが、470億の病気はもともとあり、会計上はそれを病気は既に発生していたというのである。今回はそれを表に出して処理をするということに過ぎない。さて、この病人の病状は悪くなったのであろうか。一般投資家は、10日の日に下方修正と同時に、無配を発表した事でショックを受けたようであるが(ネットの掲示板に無配は許せないと沢山の書き込みが出ている)、もともとこの会社のこの状態で配当をするなどとはもってのほかではないか。優先株式を除けば、自己資本がないのである。きっと経営者が言葉を濁してはっきり言っていないからであろうが、一般投資家の出した資本はとっくに不良資産に食われていて、もはや空っぽになっているのである。自分の出資分が0になっているにもかかわらず、配当が欲しいなどというのは、資本主義の基本を忘れてただ金をねだっているだけの事であり、要するにあつかましい。この会社は現在再建途上にあるのであり、株主が利益を得ようとするのであれば、この会社からこの先5年ほどは配当を期待すべきではない。出た利益は、すべからく内部留保にまわす事が重要である。まだ、病気も完治していない病み上がりのわが子に、自立を助けるどころか、親である自分にも食い扶持をよこせといっているようなものである。無配の決定も、従って、この会社の再建のためには正しい判断であり、良い材料なのである。

3.優先株式に蝕まれる資本

さて、この会社の不良資産処理と業績の下方修正については、一応の結論を得た。業績の下方修正については、何等問題とするにはあたらず、むしろ評価できるというのが私の結論であるが、そんなことよりも、この会社の資本の構造のほうが、はるかに問題が多い。先にも述べたが、この会社の問題は、既に終わったと考えられる不良資産の処理そのものにあるのではなく、今までの不良資産の処理の仕方にある。会社は、先に述べた5千億の不良資産の処理のため、その原資として優先株式を発行して資金調達をしている。以下が、この会社に残っている優先株の一覧である。

5千億の不良資産の処理の原始として、3千5百億の優先株を発行した事がわかる。この優先株の引き受け手は、みずほ銀行である。この優先株は、金利に相当する優先配当率が高く、TIBORプラス1.25%から3.5%の高率になっている。現在の6ヶ月もののTIBORはほぼ1%であるから、会社は2.25%から4.5%という途方もない高金利の金を調達した事になる。長期の10年国債でさえか1.5%にもかかわらず、こんな高利の金を使っていては再建は難しい。しかもこの会社は金融会社である。金融を業とする会社が、事業会社でもしり込みするような高利に手を出してどうするのか。金融会社の調達金利は仕入れ値であり、それをそのまま事業会社に貸して利益が出る水準でなければならない。

上記の表で、推定配当というのは、TIBOR1%を前提として、年間いくらの優先配当が必要かということを計算したものであるが、年間126億もの優先配当負担になっている事がわかる。A種からE種までの2,000億は平成14年8月に、F種からH種までの1,500億は平成15年7月に発行されているが、当時のこの会社ではこのような条件でしか資金調達できないくらい会社の状態が痛んでいたのであろう。しかし、現在はこの優先株の存在が会社の再建の大きな足かせになっている。会社は、平成13年に、奉加帳方式で433億の取引銀行に対する第三者割り当てをおこない、さらに平成14年には518億の減資を行っているのであるが、今となっては、このときの第三者割り当てと、減資の規模の桁が違うのである。この人たちの、処理の甘さがここにも出ているではないか。後々に問題を先送りして、結局損をしているのである。

すぎた事はさておき、一般投資家にとって見ると、このことは、この会社が利益を出しても年間126億までは、それは一般株主のものではないということを意味する。配当原資としての126億とは、利益ベースに直すと税負担を引き戻すため217億ということになる(126億÷(1-税率42%))。この会社は、今回の伊藤忠への第三者割り当ての後、829百万株の発行済み株式となる。また、来期以降600億以上の経常利益を出す見通しを立てている。仮に、来期の経常利益が500億と仮定し、それは十分に想定可能でありまた立派な数字でもあるのであるが、出るであろう500億のうち、既に217億は優先株主のものであるから、一般株主の利益というのは283億ということになる。これを税引き後に置きなおすと164億に過ぎない(283億×(1-税率42%))。一般株主が期待する5円配当を行うためには、41億の配当原資がいるのであるから(5円×829百万株)この場合配当性向は25%となり、やや高い配当負担となる事がわかる。要するに、この会社の高い収益力は、優先配当分217億を差し引いて考えるべきなのであり、逆に言うとこの会社が217億円の利益を出すとするとそれは、一般株主にとっては、利益がない状態と同じということになる。

4.オリコの財務分析

さて、この会社に一般株主の自己資本がないということは既に説明した。平成16年の3月末の資本の部は2,890億であるが、3,500億の優先株を差し引くと、実質資本はマイナスの610億円である。しかしながら、私は、この会社には少し含み資産があると思う。同じく平成16年3月期で見ると、919億の税効果資産に対する評価性引当金を立てているが、この会社の収益力から考えて、この引当金は要らない可能性が高い。監査法人は、税効果についてはいまや税億課に関する監査委員会報告に従って機械的に評価するので、評価が実態とずれているのではないか。反対に、退職給付に簿外債務があると思う。将来給付の割引率がこの会社は2.5%と高く、10年国債でさえか1.5%にもかかわらず2.5%というのは認めがたい。高い割引率で将来債務を割り引いているのだから、その分だけ負債が過小評価されるのであるが、仮に2%で修正計算をすると過小評価分の負債が追加28億出る。さらに、退職給付債務の計算上、未認識の数理差異と未処理の移行時差異が合計149億あり、それは現行会計上は許容されているけれども、その実態は簿外債務である事には変わらない。従って、この会社の、一般株主資本というのは、マイナスの610億に税効果の含み資産919億を足し、簿外退職給付債務の177億を引いた金額ということになり、132億というのが正解であると思う。これは、一株あたり17円くらいに当り、要するにほとんどないということである。

さて、このように考えてくると、会社の評価は将来収益以外では行いようがないことがわかる。

今回の伊藤忠による資本提携は、243億の第三者割り当てと、みずほ銀行からの240億円の発行済み株式ならびに200億のA種優先株式の取得より構成されている。ちなみに伊藤忠に対する株の割り当て価格は282円である。10日の株式市場は、業績の減額修正と無配化に驚き、このことによる財務体質の改善効果は織り込んでいない。会社は、問題の優先株式の償還を進めたい意向とのことであり、償還スケジュールを策定する事を発表している。優先株式の償還が出来れば、その高率の優先配当負担の倍以上の利益が出てくることは既に説明した。まことに、優先株式の償還はこの会社の負の遺産の解消として重要であるが、それが出来るためにはこの会社は株価が欲しい。有利な新株の発行が出来るからである。しかし株が上がるためには、優先株の消却が必要である。循環論に陥っているのである。結局、この会社の再建を進めるためには、一般投資家の評価が上がり、株価が上がる事が必要なのであり、そうすれば優先株の消却が進み、また株が上がるという好循環がやってくることになる。今回の資本提携は、ビジネスモデルそのものとしてはみずほ銀行を仲介として、伊藤忠とオリコの相乗効果が期待でき、良いM&Aであると思う。伊藤忠もオリコも、10日の日にオリコの株が下がってしまってショックなのではないか。しかし、市場の評価が出るのは、10日の混乱が収まり、金土日の三連休で頭が冷えた明日14日なのであり、彼らもまだ悲観する事はない。

ちなみに、先ほどのオリコの予想年間利益と、優先配当をひいた一般株主の利益の比較一覧を作成すると次のようになる。

この表の最後の欄の420億というのは、今回修正後で会社が出している今3月期の経常利益であり、この数字はさすがに達成可能であろうから、これをベースに考えると、現在の株価は420億の経常利益を前提として、株価収益率で東証平均の約20倍強に買っていることになる。もともとこの株は、昨年の11月の250円から先週にかけて310円まで徐々に上げてきていたのであり、今期の420億円は織り込み済みなのである。伊藤忠との資本提携で、今後会社の利益計画のように500億、600億と利益が伸びていくことを投資家が信頼できるとすれば、会社の来期の予想利益は586億であるから400-500円までの株価が理論上計算できることになる。反対に、先行してあげてきた株価が、この資本提携を評価せず、材料出尽くしと取るのであれば、下値は株価上昇点の昨年11月の250円まであると考えるべきであろう。この会社の株は、下値250円、上値400円というのが、私の見るところである。全ては、明朝の証券市場が決定することであるが、私としては買い方に分があるのかなという気がする。

                       平成17年2月13日深夜 細野祐二


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