財務諸表危険度分析について

上場会社の粉飾決算分析を行うようになりもう13年になる。この間、私は、日興コーディアル、日本航空、東芝をはじめとして、多くの上場会社の財務諸表分析を手掛けてきたが、今振り返ってみると、その数はおよそ二十数社となる。これら二十数社の分析対象企業は、その後の歴史の中で、ほぼ例外なく粉飾決算であることが確定していった。

13年間で二十数社ということは、およそ1年に1-2社程度のペースになる。日本では、1年に1-2社程度の粉飾決算が毎年ほぼ確実に起きている。粉飾決算が財務諸表分析により解析できたのは、分析対象企業の公表財務諸表中に粉飾決算の犯行の足跡が明確に残されていたからである。そこには、粉飾の足跡どころか、粉飾の動機まで黙示されていた。財務諸表分析を行って驚愕するのは、これらの粉飾財務諸表に対して、監査法人はただの一つの例外もなく無限定適正意見を出していることにある。日本の公認会計士による会計監査制度は機能していない。

「監査法人でさえか発見できない粉飾決算を、どうして財務諸表分析一本で見抜くことができるのか?」と質問されることが多い。答えは簡単である。私は、分析対象会社から1円の金ももらっていないからである。私は、分析対象企業に対して直接間接を問わず一切の利害関係がない。

これに対して監査法人は、監査対象会社から毎年巨額の監査報酬をもらっている。監査法人は被監査会社に対して独立性があると監査報告書に記載しているが、それは公認会計士法による天下公認の詭弁にすぎない。監査報酬は監査法人内において担当公認会計士に分配されて、彼らの生活の全てを支えている。そんな監査法人に独立性などある訳がない。監査報酬は監査法人の生活の糧であり、そのような利権構造の中で、監査法人が被監査企業の粉飾決算を暴くというのは、天に唾する行為に他ならない。日本社会は、できもしない人倫に反することを監査法人に求めているのである。日本社会はもういい加減この当たり前の理屈を理解しなければならない。

私は、財務諸表分析を通じて粉飾を発見する度に、その粉飾財務諸表に営々と適正意見を出し続けてきた監査法人を批判してきた。社会もまた監査法人の無能・怠慢を叱責するのであるが、いくら批判されても監査法人の堕落が改善されることはない。私も言いくたびれた。政府は、企業会計審議会において、監査法人のローテーションや監査報告書の長文化を検討しているが、監査法人が企業から金をもらって監査をやっている以上、これらの改革が公認会計士監査の機能不全を解決することなどありえない。

会計監査ファームが被監査会社から巨額の監査報酬を得て監査を行うという構造は欧米でも変わらない。しかし、欧米の社会が日本と違うのは、欧米社会は「被監査会社から巨額の報酬を得て行う監査ファームの監査には限界があり、監査ファームに粉飾の発見防止機能を期待することはできない。」ということを知っていることにある。

欧米社会は監査法人の「不都合な真実」を十分に理解し、その理解の上で資本市場が成り立っている。欧米では、だから、被監査会社から金をもらわない真実独立した財務諸表分析ファームが民間に多数あり、投資家は、これら財務諸表分析ファームの分析報告書により監査法人の監査意見をリスクヘッジしている。これら分析ファームには、ニューヨークのCFRA社、スターマイン社、GMIレーティング社、テキサスのビハインド・ザ・ナンバー社、アリゾナのグラディエント・アナリティック社など米国ファームが多く、いずれも米国社会の支持を得て良く儲かっている。

日本では、粉飾決算の財務分析などというとゲテモノ扱いで、こんなことを専門に行っているのは私くらいであるが、欧米では、私のようなゲテモノがたくさんいて、それが営利民間組織体として社会の認知を受け資本市場を支えているのである。

近年のIT技術の飛躍的向上の結果、財務諸表の信頼性の確保は、ITによる財務諸表危険度分析により、行政の介入なくこれを達成することができる。上場会社の有価証券報告書は、金融庁財務局によるEDINETにより電子媒体での適時開示が行われている。ここで粉飾決算の発見技法をプログラム化し、有価証券報告書をEDINETで読み込んでこのプログラムによるシステム解析を行えば、全上場3600社の財務諸表の信頼度が、驚異的な高速かつ低コストで判定できる。欧米の財務諸表分析ファームの一部は、ITによる財務諸表危険度分析のシステム化に成功している。

この五六年の間に、オリンパス・東芝と巨額粉飾決算事件が立て続けに起き、監査法人の機能不全が満天下に知らしめられた。日本においても、独立財務諸表分析ファームが出てきて然るべき時期に来ている。そう思い、いろんな組織に声をかけてみたのであるが、やってくれる組織などどこにもなく、結局、私がやるしかないと思い知らされた。私は、私財の続く限り、全上場3600社のIT型財務諸表分析をやってみることにした。

IT型財務諸表危険度測定システムの測定ロジックは、粉飾発見技法として有意性の認められる9群78評価項目につき、その内容に応じてマイナス評価を行い、そのマイナス点の合計により、「安全」・「準安全」・「要注意」・「要警戒」・「危険」という5区分の財務諸表危険度の格付けを行う。

私は、ITによるソフト開発と並行して、この測定ロジックに従って上場会社の財務分析を行ったところ、およそ1カ月で100社の財務諸表危険度分析を行うことができた。今までの私の粉飾決算分析では1社の分析に1カ月かかっていたのであるが、IT型財務諸表危険度分析では、分析手順の標準化とIT化の結果、その生産効率は一気に100倍になった。今後AI機能が搭載されれば、生産効率は楽に1万倍程度に伸びるであろう。

既に東京証券取引所の日経平均採用銘柄225社中銀行・証券・鉄道・電力・ガスを除く193社(日経平均採用普通銘柄)の財務諸表危険度分析を終え、その結果を第1回財務諸表危険度分析報告書(2018年3月15日配信)及び第2回財務諸表危険度分析報告書(2018年4月16日配信)として公開している。日経平均採用普通銘柄193社の財務諸表危険度分析による評価結果は次の通りである。

日経平均採用銘柄財務諸表危険度評価
評価 最高点 最低点 第一回 第二回 合計
安全 0 -9 77 66 143 74.1%
準安全 -10 -20 10 20 30 15.5%
注意 -21 -40 6 3 9 4.7%
警戒 -41 -70 5 2 7 3.6%
危険 -71 -455 2 2 4 2.1%
合計 100 93 193 100.0%

IT財務諸表危険度分析プログラムは多額の開発資金を必要としており、その開発資金は、私の私財と財務諸表危険度分析報告書の販売代金より捻出される。財務諸表危険度分析プログラムの日本での事業化にご支援を賜りたく、お願い申し上げる次第である。

2018年4月16日 細野祐二


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